私が初めて「フルムーン夫婦グリーンパス」の旅を企画したのは20年以上前のことです。なぜフルムーン旅だったのか……それは、定年退職後の両親に、それまでしたことのない旅を企画し、ゴージャスな気分を味わい、夫婦の絆をより深めてもらいたかったからです。

もともと父親は、積極的に旅を計画するタイプではなく、小旅行はほぼ自家用車だったため、仕事関係以外での列車利用はほとんどなし。しかも、団体旅行や飛行機(移動手段)が好きではないという偏屈者。
一方、母親はといえば、「勤め先の慰安旅行」や「民生委員の視察旅行」などで、飛行機や団体バスを利用してほぼ全国への旅行はしていましたが、夫婦二人での旅はほとんど経験なし。しかも、チープな団体旅行での夫婦旅は行きたくないという偏屈者。
この偏屈者たちに、夫婦二人の旅を楽しんでもらうのは至難の業でした。

そんな時、私の頭に浮かんだのは、JRのゴージャスなグリーン車をフルに使える「フルムーン夫婦グリーンパス」を活用した旅です。

ところが私は、すぐに大きな壁にぶち当たったのです。それは、どの旅行会社の情報を見ても、「フルムーン夫婦グリーンパス」を使った旅の企画がない……という壁でした。

そこで私は、「それなら、自分が時刻表を駆使し、両親二人が興味の持てる旅を企画してあげよう!」と一念発起したのです。

私が両親へのプレゼント旅の企画で自らに課した条件は3つありました。
「1、単に一カ所を往復する旅ではJRの路線を利用する意味がない(飛行機の方が合理的)」、「2、通常価格でチケットを買ったら、夫婦グリーンパスの料金をはるかに超える遠距離の移動が不可欠だ(コストパフォーマンス感)」、
さらに、ここが一番重要なポイントでしたが、
「3、偏屈な二人に旅を提案するなら、二人が興味を持てそうな旅のテーマが必要だ(旅の興味と達成感)」という3点です。

一念発起から約2週間、私は時刻表とにらめっこし、自らに課した条件をクリアーできる旅の企画に奮闘しました。
まずは目的地です。実家は信州だったため、九州か北海道までの遠距離旅行と決め、どっちが好きかと両親に問うたところ、母親が北海道は団体旅行で3回も行っていると一言。「それなら九州だ!」と決定し、戦前生まれの両親世代が興味を持てそうなテーマとして「天孫降臨の地(高千穂と霧島の2ヵ所)」に狙いを定め、「2つの天孫降臨の地を訪ねる九州の旅(5日間)」を企画したのです。

このプランを両親に示したところ、想像以上に良好な反応がありました。
両親は、そのプラン(利用列車時刻の入ったプラン)をもって、街の旅行代理店でチケットと宿を手配してもらいました。その時、旅行代理店の係員から聞かれたのは「このプランはどこの旅行代理店の商品ですか?」というもの。
「いや、息子がつくったプランですよ」と返したところ、「そうですよね、私どもも含め、旅行代理店ではこのようなプランはつくれません」と、感心されたとのこと。
かくして、その年の10月吉日、二人は初めてのフルムーン旅へ出発!

旅を終えた両親に感想を聞いたところ、
「グリーン車は最高だった! ゴージャスな気分が味わえて、楽しい旅だった。また来年もグリーン車の旅を企画してくれ」とのこと。
それから数年間、私は両親のために毎年、フルムーン夫婦グリーンパスを活用した旅を企画し、そのたび、両親から感謝されました。

 今、私自身がフルムーンを利用する歳になり、『パートナーと二人でこんな旅をしたい』という想いで、本格的に「フルムーン夫婦グリーンパスを活用した旅」を企画するようになりました。フルムーン夫婦グリーンパスの活用には、年齢や利用期間など条件があり、しかも5日間(以上)の日数が必要なため、その活用は、定年退職した熟年夫婦の『特権』と言えるでしょう!

 日常を脱し、旅人になる……旅に出る気持ちは、未知の世界に向かう楽しみがあり、帰ってきた後も、回想する豊かさをもたらしてくれます。毎年1回は(いや数回でも)、夫婦の大イベントとして旅に出たい! それが、特権的なゴージャス旅であり、ある種の達成感や話題性がある旅なら、なおさらです。
ぜひ、多くの熟年ご夫婦に、この特権をフルに駆使し、毎年1回はゴージャスなグリーン車の旅をして、夫婦の絆を深めてほしいと思い、私は『フルムーンコーチ』のプロジェクトに参画し、フルムーンテーマにしたサスペンス小説も書いてしまいました。まさに「病、恍惚に至る」の心境です。
(フルムーンコーチ・プランナー/坂野一人)

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参考リンク