私は、かつて(20代~40代の頃)は、自ら運転する車の旅が好きでした。移動は自由だし、車中泊もできて経済的だし……そのため、貧しかった20代前半には、友人と安いレンタカーを利用し、年に2回以上、1週間~2週間程度、全国へ車の旅をしていました。
車が買えるようになった20代後半~40代も、一人で、あるいは家庭を持ってからは家族で、全国へ車の旅をしました。40代までに車で旅したエリアは、東京から近畿圏・北陸圏・東北圏は数えきれないほど、また、東京から中国圏へは十数回、四国へは4回、九州へは4回、北海道へは7回と、車で行けない離島を除いてほぼ日本全県、それも全国の海岸線を巡る車の旅をしました。今では、書店などで売っている「全国ドライブマップ」を開けば、ほぼ全ページへ行ったことがあるほどです。
若いころから車での旅が好きだった私が、40代になって紀行文のライターになったのは、そうした私的あるいは仕事での旅の経験がベースになっていると言えるでしょう。
もちろん、紀行文のライターになる前や、なった後に、飛行機を使わなかったわけではありません。車で行けない海外はもとより、国内でも沖縄へは十回以上も飛行機を利用しましたし、紀行文の仕事を始めてからは、現地取材のために国内の多くの空港を利用しました。
しかし、列車の利用は……と言えば、車が持てない学生時代に、年に数回、アパートのある東京と実家(長野県)の往復や、仕事で新幹線(普通車)に数回乗ったことがある程度で、それ以外はあまり利用したことがありませんでした。
そんな私が列車移動の醍醐味に目覚めたのは、40代後半のことです。
あるとき、大阪市経由で中国地方へ行く取材の仕事があり、クライアント(業務依頼主)が東京駅から新大阪駅まで新幹線のグリーン車を手配してくれたのです。それまで、何度か新幹線利用はありましたが、すべて普通車で、「グリーン車」は初めてのこと。

その時の印象は、今でも鮮明に残っています。
正直、それまでの新幹線や在来特急列車の移動で感じていたのは、2時間も乗っていると「ちょっと窮屈で疲れるなぁ」ということ。私はごく平均的な体形ですが、新幹線や特急列車の座席には、そんな印象を抱いていました。
ところが、東京・新大阪の約2時間30分、新幹線のグリーン車の車中で、それまで感じたことのない移動空間や移動感情を体感したのです。 空間が静かだし、座席が広いため、隣や前後の人との程よい距離感もあり、座席のリクライニングも大きく、足を載せる台もある。初めてグリーン車の座席に座った時、私の第一印象は「こりゃ、ゆっくり眠れるな」というものです。しかし、列車が動き始めてすぐに、「眠れる」という印象は霧散してしまいました。
たまたま窓側の席だったせいでしょうか、私は座席を思いきり倒して、横になるぐらいの姿勢でいながら、眠るどころか、車窓を流れる風景を見るともなしに追いながら、あれこれと自分の過去を思い返したり、少し先の未来を夢想したり……と、それまでの車や飛行機や列車(普通席)での移動ではなかった「夢想の時空」に入り込んでいたのです。それは「夢想」と言うより、「心地よい瞑想」と表現したほうがいいかもしれません。

なぜこんな心境になるんだろう? 私は考えました。
車を運転しているときは、たとえ空いた夜の道路でも、心のどこかに絶えず緊張感を持っているから、夢想や思索には限界がある。また飛行機では、外の風景が見えないというだけでなく、離陸から着陸まで「とにかく無事に……」と、小心者の緊張感に包まれている。列車の普通座席では、「ちょっと窮屈だなぁ」という思いが先行してしまう。
しかし、グリーン車での移動は、かなりプライベート感がある座席で、程よい振動に身を預け、深い夢想や瞑想の世界に入り込む時間……車窓の風景をBGVに、旅心に浸り、あれこれモノを考えたり、人生を感じたりするには、車や飛行機よりずっと優雅な移動空間だと感じたのです。

そんな体験をしてからは、「グリーン車でゆっくり旅をしたい」という思いが年々大きくなっていきました。しかし、グリーン車は快適な分、値段も高く、新幹線にせよ特急にせよ、かなりの出費を覚悟しなければなりません。 「何とかグリーン車で経済的に旅をする方法はないものか……」そんな思いで調べていたとき、大きな光明を見つけたのです。
それが「JRフルムーン夫婦グリーンパス」です。

このチケットは、夫婦二人で使用するチケットで、夫婦の合計年齢が88歳以上であればOK。しかも5日間JRグリーン車(東海道新幹線の「のぞみ」と山陽新幹線の「みずほ」を除く)に乗り放題で、夫婦合わせたチケット代は、なんと「84,330円!」。ただし、利用できる期間は「10月から翌年6月まで」、つまり7,8,9月のJR繁忙期は利用できず、さらに「年末年始」「3~4月の年度末・年度初め」「5月の大型連休期間」などのJR繁忙期は利用できません。若干の制限はありますが、「84,330円」という価格は、東京駅と新青森駅を夫婦で往復するグリーン車価格(89,520円)より安く、うまく使えば「84,330円」で5日間の全国グリーン車の旅ができるのです。

さあ、あとは「どこへ、どんな旅をするか」です。

(フルムーンコーチ・プランナー/坂野一人)

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